ch12.その他 : 下町の居酒屋 |
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下町の超有名な居酒屋にて。ここはいつも長蛇の列で客が今か!今か!と待っている。狙いは一階のコの字のカウンター席だ。待ち合わせやら予約など出来ない席だ。列に並ぶ客はちょこちょこと店内をのぞいては「ふうっ」と溜息をつくものもいる。カウンター席の一人が抜けると列に並んだ客が「よっ!あいた!」とばかりに席に着く。カウンターの中では長年ここで働いてきたらしい元気なおばちゃんが二人、料理や酒を運んでいる。この店の滞留時間は一時間半。これは客は暗黙の了解である。
漸く席について小一時間ほどたった。鯖の味噌煮に熱燗が旨い。至福だぁ~と思っていると後方から男の怒鳴り声が聞こえる。店内は一瞬空気がかたまったが、店のにいさんも負けちゃあいない。言い合っているではないか。これが下町の居酒屋なのかと思う。しかし酔った男の怒鳴り声はどんどん大きくなり、店内にこだまする?ほどに。しかしカウンター内のにいちゃんも負けちゃいない。すると「馬鹿野郎!俺は三十年ぶりにきたんだぞっ!」と男は怒鳴り続ける。多分、開店と同時に席に座り、もうできあがっている男にはなんと連れの女がいるではないか!連れはおろおろ?している。すると客の一人が立ち上がり「まあまあまあ」とその怒鳴っている男をなだめるが、その客もまた「なんだとぉ!」と発火してしまった・・・おやおやおや。
男は外へ出る。そしてにいちゃんと板さんたちも外へ出て行った。道ゆく人もその男の無様な様子に眉をひそめている。停留所でバスを待っているおばあちゃんはその場で人形のように固まってしまっているではないか。
この喧嘩の原因は?どうも三十年ぶりに来店した男は連れもいて、至福の時間を過ごしていたのだ。しかしついつい長居をしてしまったのか。料理を頼んだ後にどうもにいちゃんが「早く帰って欲しい」というニュアンスでその男に言ったようで、ついにそして男はキレでしまったようである。
「何が三十年ぶりだよ!毎日来てくれているお客さんになんていえばいいんだよっ!」とカウンターの中で名物女将がぽつりと呟いた。
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