ch12.その他 : 橙の家

  住宅にはいろいろな人間ドラマがあると思っている。子どもが生まれて新しい家族の一員となればもそこに喜びが満ちる。いることが当たり前と思っている親が亡くなれば、その喪失感に心に今まで無かった穴がぽっかりあくだろう。子どもたちが大きくなり巣立っていけば、そこには成長するまでの懐かしい痕跡が散らばっているだろう。
  生活スタイルがかわることで、最近てはホームシェアをしようという新しい動きも出てきている。「持ち家に住んでいるけれど一人で暮らすには広すぎるようになった」そんな理由も多いと聞く。オーナーとシェアメイトさんの関係がポイントとなるのだけれど、どうも"日本人"の気質というか、他人と暮らすことに抵抗感がある事も否めない。
  かなり前から気になってしようのない古民家があった。雑草が生え、何の手入れもされないその家は年月とともにますますみすぼらしくも見えてくるものだった。しかし、土地としてみればなかなか立地がいいので、そんなこんなでずっと気になっていたのだ。もしや相続などでもめて、決着がつかず放り出されているのかとも思っていた。
  あるアートプロジェクトの一貫として、その古民家の中を見学できることを知った。不思議な感覚で足を踏み入れる。昭和という時代に。ある方のお妾さんが住んでいたと聞き、ますます興味も湧いた。玄関から和室へ。あかり障子もお洒落である。床の間には季節の花も活けたのだろうか。そして奥へ行くと庭に面した和室へと。大きな火鉢がその時代を物語っている。そこは、昔"橙の家"と呼ばれたと聞いた。きっと初夏に白い花が咲き、冬にはそれこそ鮮やかな果実が実っていたのだろう。それこそ鮮やかな橙色が綺麗であったであろう。奥へ進むと風呂場とトイレ。小さな台所の横には二畳ほどの部屋がある。女中部屋か?今ではすっかり荒果てた家になってしまっているが、今では贅沢な平屋である。昔々へとタイムスリップして見ると、楽しい笑い声も聞こえてくるようだ。家人は一体どうしたのだろう・・・ここにも一つの歴史があったのだ。

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このページは、ichikoが2010年11月14日 22:56に書いたブログ記事です。

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吉田いち子
東京麹町生まれ。日本女子大学卒業後、サンケイリビング新聞社に勤務。2004年3月独立。
その後フリーランスで単行本取材・執筆。主婦、母親、会社員の慌しい?人生経験を生かした取材が得意テーマ。強みは「人脈」。名刺交換だけでなくまさに「魂」の交換?を理想にした密度の濃い人脈作りを目指している。2005年10月に首都圏在住の40歳以上のミドル層をターゲットとした生活情報誌『ありか』を創刊。2007年5月に、これまでに培ったノウハウを生かし編集企画・出版プロデュースをメーンとする株式会社『吉田事務所』を設立した。2011年春から豊島区の地域紙『豊島の選択』の取材・編集。

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