ichiko : 師走の奇跡 |
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師走の慌しい夕刻に、奇跡とも言うべき出会いがあった。山手線で田町駅から車内に乗り込んだ時、丁度シルバーシートの真ん中の席が空いているのを見た。混雑していく車内。連結部の方に行き、立っててると一人杖をついた男性が乗り込み、そしてそのシートに座った。ふとその男性の杖から顔へ目がいく。「あれっ?」と思う。20代の時に仕事をしていた広告代理店のNさんに似ている。Nさん?と思いながらも声がかけられない。顔のそれぞれのパーツ、そして表情を見ていく。「多分?」とは思うがまだ確信がもてないでいる。車内は次第に混雑していく。
たまたま今一緒に仕事をしていて共通の知り合いに急いで携帯メールで問い合わせる。確信が持てなかったのは何故かその「杖」だった。直ぐに返信メールが届く。スポーツで無理をして杖をついていると聞いていると。「ああ!やはり!そうか!」と思った時には人混みの中に追いやられた。数分のドラマだった。声がかけられない本当に数分の出来事だった。
あの時間、あの車両、あの扉、そしてあのシートの前で。奇跡だろう。何十年もの時間の経過があった。もう数十年の時間の堆積だ。しかし、あの一瞬、私の脳裏には20代のNさんの顔や声質、姿そしてNさんの担当していたクライアント名などもうかんできた。そして何故か、川端康成の短編小説「不死」を思い出していた。来年は多分、返信メールをくれた共通の知人を通じて再会のチャンスが訪れることだろう。今年は何とも小さな小さな不思議ドラマの連続であった。
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