ch12.その他 : 師走の風の中で |
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先般、浅草の裏観音で35年間やってきた小料理屋が店を閉じた。女将はいつも着物をぴしっときていた人であった。小上がりとカウンターは大人8人も座ればいっぱいになる、そんな小さな店ではあったがいつも笑い声で満ちていた。
活気ある時代は店がいつも大賑わい。「お客様でいっぱいで一人も入れなかった。そんな時もあったのよ」と女将が呟いた。「旦那衆もみんなねぇ・・・亡くなってしまった」。もう少し、店じまいを延期できないのかと私たちは精一杯願ってもいたが、女将は首を横にふり「潮時ね」と静かに笑った。お客が一人も来ない夜もあったという。そんな夜は一人静かにカウンターに座り本を読む。誰も来ない。時間が流れ・・・そして。ある時から、そう、時代の風向きが変わったのだ。
私はその夜、店の看板から店内へとくまなく撮影をした。いつも大荷物置き場にしていた小上がり。壁の絵。活けられた季節の花。ネームが年月と親しみが込められているボトル。一枚一枚、想いをこめて撮った。「わたしは、いいわよ・・・」と恥ずかしがる女将がその一枚にひっそりと佇む。「有難う」と。2012年の師走。この時はこの時しか無いんだね。毅然と"この時の風"を感じながら、私は深く礼をした。「少し、骨休みでも・・・」と言ったが冷たい北風が強く吹いた。
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