ch12.その他 : 師走の風の中で

 先般、浅草の裏観音で35年間やってきた小料理屋が店を閉じた。女将はいつも着物をぴしっときていた人であった。小上がりとカウンターは大人8人も座ればいっぱいになる、そんな小さな店ではあったがいつも笑い声で満ちていた。
  活気ある時代は店がいつも大賑わい。「お客様でいっぱいで一人も入れなかった。そんな時もあったのよ」と女将が呟いた。「旦那衆もみんなねぇ・・・亡くなってしまった」。もう少し、店じまいを延期できないのかと私たちは精一杯願ってもいたが、女将は首を横にふり「潮時ね」と静かに笑った。お客が一人も来ない夜もあったという。そんな夜は一人静かにカウンターに座り本を読む。誰も来ない。時間が流れ・・・そして。ある時から、そう、時代の風向きが変わったのだ。
  私はその夜、店の看板から店内へとくまなく撮影をした。いつも大荷物置き場にしていた小上がり。壁の絵。活けられた季節の花。ネームが年月と親しみが込められているボトル。一枚一枚、想いをこめて撮った。「わたしは、いいわよ・・・」と恥ずかしがる女将がその一枚にひっそりと佇む。「有難う」と。2012年の師走。この時はこの時しか無いんだね。毅然と"この時の風"を感じながら、私は深く礼をした。「少し、骨休みでも・・・」と言ったが冷たい北風が強く吹いた。

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このページは、ichikoが2012年12月25日 09:06に書いたブログ記事です。

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吉田いち子
東京麹町生まれ。日本女子大学卒業後、サンケイリビング新聞社に勤務。2004年3月独立。
その後フリーランスで単行本取材・執筆。主婦、母親、会社員の慌しい?人生経験を生かした取材が得意テーマ。強みは「人脈」。名刺交換だけでなくまさに「魂」の交換?を理想にした密度の濃い人脈作りを目指している。2005年10月に首都圏在住の40歳以上のミドル層をターゲットとした生活情報誌『ありか』を創刊。2007年5月に、これまでに培ったノウハウを生かし編集企画・出版プロデュースをメーンとする株式会社『吉田事務所』を設立した。2011年春から豊島区の地域紙『豊島の選択』の取材・編集。

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