ichiko : チャンスは突然に |
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人は時として全てを投げ出してしまいたい衝動を覚えることがある。卑近な例でいえば、毎日、原稿執筆に追われること。プレゼン用の資料がまとまらない。頭で考えたマーケティング論が営業セールスのシーンでは全く役に立たない。。。。。枚挙に遑なし。毎日、中央線のプラットホームで「あずさ」号を見ながら、「ああ!ぜーんぶ投げ出して、信濃路にでも行ってしまうか!」と思うこともままある。でも、人は辛抱し、そんな衝動を抑え、コツコツと日々、生活していく。
しかし、投げ出してしまう人がいる。私自身、そういうことが、これまでの人生で経験がないので、そのような行動は「悪」というより、むしろ甘美な魅力さえ感じてしまう。とはいうものの、ライターが取材、原稿を投げ出す時、それがこうした日記のようなものではなく、多くの人々の拘わりの中で、商業ベースにのっていると、どんな理由があれ、これは大変な重大事件なのだ。
それが「やってきた」のだ。面倒なパトンタッチというより、私にとってラッキーチャンス。突然やってきた。実に20年ぶりにその先生の著作物に拘わることができた。こんな事件でもなければまず、再びお目にかかわることはまず、ないだろう。
「やあやあ、久しぶり」
「覚えていますか?」
「もちろん。ぜんぜん変わらないねぇ」
「また、冗談を!先生」
と、まあ、20年近くの時間が一気に凝縮する。久しぶりにおりた私鉄沿線の駅。町並みは少しだけ変っているだけだ。そうだ、昔、インタビュー取材に来た。当時はマンションに住んでいらした。どこの道をどう歩いたかは全く記憶にないが、なぜか窓の外の景色は覚えている。吉野ヶ里遺跡の発掘調査をしてきた時だった。とんでもなく大きな牡蠣の殻が出てきたよと、まるで子供のように話し、次々と溢れてくる面白い話に取材メモをとることも忘れていた。
3月も半ばというのに寒い夜だった。取材の帰り道に心がほっと温かくなった。
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