東京・新宿区河田町にある「小笠原伯爵邸」に行った。本が一冊仕上がったので、そのお祝いでもしよう!と編集スタッフの仲間と一緒だった。カメラマンのKさんのお勧めだ。

  ここは、昭和初期(昭和2年)にもと小倉城主であった小笠原長幹(ながよし)伯爵の邸宅として建てられた日本には少ないスパニッシュ様式の瀟洒な洋館だ。当時、流行していたスパニッシュ様式が存分に取り入れられて、私の大好きな中庭(パティオ)も造られている。敷地は1000坪あるという。取り壊しの話があった中「肝だめしの場といわれるほど荒れ果てた廃墟でした。石原都知事でなれれば、取り壊しになってたでしょうね」とメートル・ドテルの谷本さんは言う。
  建物は、昭和23年に米軍に接収され、昭和27年 米軍接収解除後、法務省から東京都が買収。その後東京都が福祉施設として使用。老朽化のため、昭和50年以降はほとんど使用されないままの状態となり、取壊しの方針が出されていた。日本建築学会などから強い要望があったため、昭和55年に取壊しは断念され、活用の方針が決まった。
 平成3年に、建物の所管を福祉局から生活文化局に変更されて「民間に貸し出す」と発表された。修復費用は事業者持ち、契約期間は10年という条件で、これで本当に借り手が付くのだろうか、と心配していた中、箱根のレストラン「アルベルゴ バンブー」などを手掛けている、インターナショナル青和が2年ほどかけ修復工事を行ったそうだ。それにしてもかかる費用と時間に感動するばかり。小市民の呟きだが。。。
 
  私たちが食事をしたダイニングルームは伯爵の寝室があった場所らしい。「特別にご案内しますよ」と谷本さんが言ってくれた。緩やかな曲線のイスラム風のシガールーム。窓の向こうには月光に照らされた庭園が映し出されていた。石の階段を静かに登ってバルコニーにでる。月が近くなる。そして特別に地下にあるワインセラーへ。なんと奥に進むと井戸がある。ふと見上げると天窓がある。陽射しで程よい湿度に包まれ、ワインたちは熟成を待つ。静かなワインの吐息が聞こえる。

1階に行く途中で、私の耳にふと華やかな晩餐会の音楽が聞こえてきたようだった。私は時空を遊ぶ人々に、目で合図を送った。

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このブログ記事について

このページは、ichikoが2005年4月22日 09:02に書いたブログ記事です。

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吉田いち子
東京麹町生まれ。日本女子大学卒業後、サンケイリビング新聞社に勤務。2004年3月独立。
その後フリーランスで単行本取材・執筆。主婦、母親、会社員の慌しい?人生経験を生かした取材が得意テーマ。強みは「人脈」。名刺交換だけでなくまさに「魂」の交換?を理想にした密度の濃い人脈作りを目指している。2005年10月に首都圏在住の40歳以上のミドル層をターゲットとした生活情報誌『ありか』を創刊。2007年5月に、これまでに培ったノウハウを生かし編集企画・出版プロデュースをメーンとする株式会社『吉田事務所』を設立した。2011年春から豊島区の地域紙『豊島の選択』の取材・編集。

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