ichiko : スタートは何回も |
||||
一枚のハガキが届いた。以前勤めていた会社で一緒に仕事をした男性からのものだった。円満退職をしたという。(まあ、みんな円満退職なのだけれど)そして、びっくりしたのは、運送の仕事を始めるという。
久しぶりに声を聞いた。勤務中は高血圧の他、いろいろと病気もあり休みがちで、結構周囲に心配させたが、今日の声は弾んでいた。「元気そうじゃないの!?」というと彼は「元気ですよ!来週、クルマが届くんですよ」と何か吹っ切れたように明るく笑った。
組織とは次第に大きくなっていくと、人は「過去」のことを忘却していく。小さなことでもコツコツと真面目に取り組んだことや、なかなか認められない辛さを味わったことも。環境は面白いほどに人を変えていくものだ。確固たる意思があっても、小さな組織、中位の組織、そして世間でも「大企業」とよばれる組織に属しているだけでも恰も自分に大きな力がついたかのように錯覚する。それが錯覚だと確認するのは容易いこと。一人で何が出来るか?相当な実力がなければ大変だ。神輿を本気で、実力で担ぐのはほんの一握りの人間。あとはぶら下がっている人々。だからこそ、理不尽さにも割り切って割り切って男たちは家族のために、いろいろ愛する人のために働き続けるのだ。
「頑張ってよ!精一杯応援するからね!」というと、彼は口篭った。運送の仕事を始める自分に、応援するといっても何をするのか?多分判らなかったのかも知れない。今は地域のメディアを持って編集と営業をしているんだよと伝えると納得したようだった。
病気で悩んだ日々も多かったに違いない。たとえ、それが彼の言う「弱さ」であっても。しかし、私は、しばしの間でも仕事を頑張ってしてきた時代を思い出し、懐かしみ、そして新しいスタートをきる彼を精一杯応援していく。今は大手町に近代的な立派なビルが建っている。そのビルが建つ前の古い社屋が思い出され、その7階の一角でデスクに真剣にむかっている彼の姿がふと脳裏に浮かんだ。頑張れ、スタートは何回だってあるさ。
コメントする