ch10.生活 : 人生いっぱいの"横丁"


   表通りからちょっと横に入って・・・・私は横丁が大好きだ。落語に「"よこちょう"のご隠居さん」がよく登場するが、この場合は、「横町のご隠居さん」。横町は町裏への通路で「木戸がある」、これに対して「横丁」は一般道でつまり木戸がないということらしい。同じ脇道でもちと意味が違うのだね。
 「丁」には出会う、行き交うという意味があるが、まさに横丁に入ると何とも人情の行き交う、情緒たっぷりの場所だと思う。赤提灯の灯りに誘われれば、もうホイホイ・・・となってしまう。


  東京の池袋に「人世横丁」という横丁があった。敗戦後の焼け跡から立ち上がり出発した。昭和26年、27年に生まれ、訪れる人々を温かいぬくもりで包んだという。近くに「人世座」という映画館があったので「人世横丁」と言う説があるが、「人生にはいくつもの横丁がある。だから人世ではなく人生横丁だ」と名付けたのは、天ぷら屋『○天』の中村規久代さんの父親。「父はまさに政治屋だった」という中村さんは言う。人性横丁の創設に奔走した方だ。
  昭和12年生まれの中村規久代さんだが、パワフルで若いことといったら気持ちがスカッとする。「創設当時から家族も皆一緒に暮らしてきた横丁は子どもたちにとっては懐かしいふるさと」だと。そして「横丁で育った人たちは本当に元気で長生き。そして出世しているのよ。何故かしらね?」とけらけら明るく笑う。人世でなく人生を感じながら、皆が肩を寄せ合って、戦後をめいっぱい生きてきたのかと感動を覚える。

  往時は、現在のサンシャインビルの場所にあった「巣鴨プリズン」から外出の許可を得た戦犯たちが訪れて、釈放後に横丁の女性たちと夫婦になったとも聞いた。新聞紙をパッと広げ、歯磨き粉で顔中を白くお化粧し、やぶれ三味線をひく"おけいちゃん"。長~いスカートに下駄履きで下手くそなタップダンスをして料金をとる若い女の子、毎晩、着流しで来る絵描きさん。絵筆は割り箸。先っちょを崩して筆の様にして醤油で描いたという絵は情緒たっぷりだったと想像する。そう、いろんな人々のそれぞれの掛替えのない人生が詰まった横丁だったのだろう。また日本のゲイバーの発祥でもあった「グレー」には江戸川乱歩や丸山明宏(現在の美輪明宏)さんたちが足しげく通ったという話しなど・・・・。
  レトロな雰囲気が人気を呼んで多くのドラマのロケにも使われたが、建物の老朽化、店主の高齢化、後継者難などから再開発の波には勝てなかった。1軒だけ残っていた「幸ちゃん寿司」が最後の客を迎えたあと、昭和がひとつまた消えたと言う。中村規久代さんの話しは、まるで映画を観ている感覚を味わった。

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このページは、ichikoが2009年9月10日 17:00に書いたブログ記事です。

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吉田いち子
東京麹町生まれ。日本女子大学卒業後、サンケイリビング新聞社に勤務。2004年3月独立。
その後フリーランスで単行本取材・執筆。主婦、母親、会社員の慌しい?人生経験を生かした取材が得意テーマ。強みは「人脈」。名刺交換だけでなくまさに「魂」の交換?を理想にした密度の濃い人脈作りを目指している。2005年10月に首都圏在住の40歳以上のミドル層をターゲットとした生活情報誌『ありか』を創刊。2007年5月に、これまでに培ったノウハウを生かし編集企画・出版プロデュースをメーンとする株式会社『吉田事務所』を設立した。2011年春から豊島区の地域紙『豊島の選択』の取材・編集。

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