ichiko : 深い記憶

もうすぐ17日、春の彼岸入り。昨年、友人の映画監・槇坪夛鶴子さんが亡くなった。何か心の整理も出来ず信じられないまま年を越した。鳩居堂から良い香りの線香を送る。彼女は一貫して若者、高齢者と身近な問題をテーマに映画を撮り続けてきた。最新作『星の国から孫ふたり』の上映を全国展開している途中の死であった。

  長年、槇坪さんと仕事をともにしてきたプロデューサーの光永憲之さんと話した。その日、午前7時に仕事場で光永さんはベッドに腰掛けている槇坪さんを見る。長年リウマチに苦しんできて槇坪さんの身近な世話をする方が5時に引き上げる時、「テレビをみたい」といったそうだ。ベッドに腰掛けてテレビを見たのだろう。光永さんはとても顔色がよく、微笑んでいる彼女の姿に「もう起きたら?」と何回か声掛けする。しかしその声掛けにいつもの返答がなかったという。


  最初の作品の発表の時か、新宿の喫茶店で初めて槇坪さんにインタビューをした。当時はオープンしたばかりのお洒落な喫茶店の窓際の席だった。窓からは道行く人々が見えた。昼下がりにインタビューしていたが、いつの間にか夕暮れ近くになっていた記憶がある。広島生まれの槇坪さんのその壮絶な記憶を私はずっと聞いていたのだ。白い壁の前で話す槇坪さんはまるで肖像画のようにも見えた。


  「槇坪は次の作品を準備していたんですよ」と光永さんが言う。昨年の3.11の時から、そして自分の広島の壮絶な記憶。作品は槇坪さんの"生"の軌跡を描いていくもので今年9月には完成するそうだ。そこには槇坪さんの深い想いがあると思っている。死というものが未だ信じられず、また「お元気ですか?」と電話をしてしまいそうな自分がいる。映画が完成すると試写会でのあの笑顔は忘れません。槇坪さん、ありがとう。
槇坪夛鶴子さんの映画については「企画制作パオ」へ

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このページは、ichikoが2012年3月12日 05:21に書いたブログ記事です。

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吉田いち子
東京麹町生まれ。日本女子大学卒業後、サンケイリビング新聞社に勤務。2004年3月独立。
その後フリーランスで単行本取材・執筆。主婦、母親、会社員の慌しい?人生経験を生かした取材が得意テーマ。強みは「人脈」。名刺交換だけでなくまさに「魂」の交換?を理想にした密度の濃い人脈作りを目指している。2005年10月に首都圏在住の40歳以上のミドル層をターゲットとした生活情報誌『ありか』を創刊。2007年5月に、これまでに培ったノウハウを生かし編集企画・出版プロデュースをメーンとする株式会社『吉田事務所』を設立した。2011年春から豊島区の地域紙『豊島の選択』の取材・編集。

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