ichiko : 願いは叶うもの |
||||
願いは叶う・・・と思った日だった。祖父が創業し、私の生家はレストラン業を営んでいた。
当時、赤坂の「常盤家」といえば、かなり有名な店であったという。1950年代に、料理人・道場六三郎氏がここで修行し、1959年にはチーフとなって衆議院議員食堂、総理官邸、明治記念館の料理を担当していたということを、随分前に「文藝春秋」で読んだことがあった。祖父・渡邉喜一と正月に鳩山邸に料理を届けたということも書かれていた。話ばかりで私の記憶の中には全くなかった。
だいぶ前だが、フジテレビで「料理の鉄人」という番組で鉄人・道場六三郎氏の仕事ぶりを見ながらいろいろ考えていた。その時から、真剣に「出来れば仕事で出会うことはできないものか?」と考えていたが、新聞社に勤務している間は実現はしなかった。雑誌社に勤務する友人が「普通に会えばいいじゃないの」と言ったが、やはり会う「きっかけ」がなかったのだ。
当時、常盤家の従業員の人たちは口々に「あの人も今は有名になっちゃったからねぇ」といい、昔話に終始するのだった。
独立し、ある日ふと出版社の社長に「道場さんの本でも作りますか?」と言い、これまでの経緯を話した。企画を持ち込んだ。話は一気に進んだ。
昼下がり、銀座の「ろくさん亭」に出版社の社長と私はいた。約束の時間になった。
「やあやあ、懐かしい懐かしい」という声とともに、道場六三郎氏が姿を現した。満面に笑みを浮かべて、堰をきったように道場さんは昔の話をしてくれた。そして「分家によく似ているね」と私の顔を見て言った。父の妹、叔母のことだ。「昔から似ていると言われたんですよ」と私も笑った。暫くすると「ややや、本題、本題!」といい、出版の企画、今後の取材の予定についてつめていった。1時間足らずの打合せだったが、なんと、凝縮した時間だったのだろうか。
これまでの私の思いが、叶った不思議な感覚の午後だった。
コメントする