ch05.エンタテイメント: 2006年5月アーカイブ

ch05.エンタテイメント : 今村作品のリアリティ 

  カンヌ国際映画祭で2度、最高賞を受賞した映画監督の今村昌平さんが今日亡くなった。
「にっぽん昆虫記」「楢山節考」そして井伏鱒二の小説を原作とした「黒い雨」など、数々の作品を残されたが、私は、犯罪者を描いた「復讐するは我にあり」が印象深い。この映画は佐木隆三の直木賞受賞の小説の映画化した作品。実在の連続殺人犯である西口彰の犯行を克明に綴っていく小説は作家の執拗までの綿密な取材によって書かれたものだ。映画化にあたり、取材魔で知られる今村昌平が更に取材加えている。
  何と言っても ロケを実際に犯行が行われた場所を使って撮影するという鬼気迫る方法をとっているところだ。とにもかくにも殺人場面での緒方拳の演技には身震いがしたほどだ。事実に基づいた重いリアリティを表現する時、俳優と監督との間の正気と狂気の鬩ぎあいを感じる。映画が終わった後も、言い知れぬ恐怖を与える凄みは今尚、私の中の映画リストのベスト10。
 

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  駅の構内を忙しく歩いている時、また車内でぼんやり車窓の景色を眺めている時、時折ふっと後方からの会話に耳がダンボ状態になることがある。大体が感情の直球というか、女子高校生か男子高校生の会話。つまり10代の若い感想ということ。
   つい先日は女子高生が何人かでキャアキャアと騒いでいた。「もう最高!あんなプロポーズ受けたら、感動しちゃうよね!」。「誰が言ってくれないかな、あんな感じで」。
これは「海猿」の“完結編”「海猿LIMIT OF LOVE」で主演した潜水士になった海上保安官役の伊藤英明が乗客の恋人役の加藤あいを助けた後、絶体絶命のピンチに陥り、生か死かの極限状況の時、船内に残されていた携帯電話で恋人に切々とプロポーズをするシーンだ。その言葉があまりに切なく、「涙が止まらないの!」という。女子高生たちは興奮状態。実は、私は、このシーンはむしろうっとおしく感じで要らないよと思ったところだった。しかし10代は興奮して騒ぐほど「いいシーン」だったのだ。
  そして、昨日の午後「俺、完全にはまったよ、すっげーっよ」と男子高生が興奮していた。これは世界中でベストセラーになった「ダ・ヴィンチコード」のこと。単なる殺人事件やスリルとサスペンスという単純なものでない。歴史的側面の知識を持って観ると可也、面白いと思う。
 何より、トム・ハンクスが演じるラングドンがいい。そして、知的で清潔な魅力があるソフィー役のオドレイ・トトゥ。彼女の祖父が自分に残した暗号。ダ・ヴィンチが絵に描きこんだ暗号を解き進むうちに、キリスト教の闇の歴史に迫っていく展開は凄い・・・のだが、やはり理屈では理解出来ない世界は本当に難しい。男子高生が「はまる」というのはどこにはまったのだろうか?聞いてみたい。
  しかし、トム・ハンクスは「スプラッシュ」「フォレスト・ガンプ」「アポロ13」「キャスト・アウェイ」などいい俳優だなと思っていたが、今回は兎に角ラングドン役ははまり役だ。何故か、大好きなジャン・レノがちょっとくすんで見えてしまったくらい。
  久しぶりに見たルーヴル美術館。ああもう一度ゆっくりと回りたいなと思った。3日間くらいかけて。

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ch05.エンタテイメント : 謙さん

  
   人生は突然、何か起こるかは分からない。
  若年性アルツハイマーという重たいテーマだが、今回プロデュースも手掛け、渡辺謙が主人公を演じる『明日の記憶』。これは、第18回山本周五郎賞を受賞し、2005年の本屋大賞第2位に輝く荻原浩の傑作長編が原作。
 
  広告代理店の営業の第一線で仕事をする男がある日、若年性アルツハイマー病に侵されていることを知る。取引先の場所が思い出せず゜、知っているはずの街が見知らぬ風景に変わっていく。喪失感をこえ痛みを共有する熟年夫婦を渡辺謙と樋口可南子が好演している。
  「お前は平気なのか?俺が俺じゃなくなってしまっても」と妻に訊ねる。夫婦が積み重ねてきた年月を、そして思い出も全て忘れてしまうだろう夫。妻が答える。「私がいます。私が、ずっと、そばにいます」と深い。考えさせられる。私にはそんな言葉が言えるのだろうか。全ての記憶を次第になくしていく人に対して。いろんな思いが交錯する。
原作もさることながら、やはり冴え渡る堤監督の演出手腕は見事。


  渡辺謙自身が20代後半に「天と地と」の撮影中に病気のため、降板したという経験がある。当時50億円という費用をかけての角川映画。治療にあたりながらも「申し訳ない、みんなに大迷惑をかけた、申し訳ない」の気持ちで一杯だったという。
  
   何年か経ち、ある時、この原作と出会った。自分の内にずっと封印していた何かが弾けたという。また、自分の中で決着のついていなかったことに気付いたという。その時、封印がとかれ、原作に引き込まれ、「映画にしなくてはダメだ」と思ったという。そして、この作品は映画化されたのだ。
  撮影中も、闘病生活の頃の自分と重なることが多かったらしい。「どうやって生きるんだ、俺は?」と。途中で逃げ出しそうな気持ちにもなったという。
 最近では、渋さも増して、ますます渡辺謙の演技が冴えてきた。高倉健に続いて、私の中の「謙さん」がまた一人増えた。




 

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プロフィール

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吉田いち子
東京麹町生まれ。日本女子大学卒業後、サンケイリビング新聞社に勤務。2004年3月独立。
その後フリーランスで単行本取材・執筆。主婦、母親、会社員の慌しい?人生経験を生かした取材が得意テーマ。強みは「人脈」。名刺交換だけでなくまさに「魂」の交換?を理想にした密度の濃い人脈作りを目指している。2005年10月に首都圏在住の40歳以上のミドル層をターゲットとした生活情報誌『ありか』を創刊。2007年5月に、これまでに培ったノウハウを生かし編集企画・出版プロデュースをメーンとする株式会社『吉田事務所』を設立した。2011年春から豊島区の地域紙『豊島の選択』の取材・編集。

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