ch06.音楽: 2009年7月アーカイブ
ch06.音楽 : 幻の一番 |
||||
時の経過とは一体何なのだろうか?と時折考える。どんな人も時が過ぎれば年をとり、老いていく。楽しいことも辛いことも、多くの記憶は遠くにいってしまうものだ。
「あの時に聞いておけば」「あの時に伝えておけば」と、後悔に似た気持ちをいだくことも多いだろう。戦後、60数年経過し、やはり多くの事は遠い記憶となり風化していくのだろう。事実も、またそうでない事も。
『リンゴの唄』(サトウ・ハチロー作詞 万城目正・作曲)という曲を初めて聴いたのは中学生か高校の時。今では記憶もさだかではないが、テレビで流れたその曲を覚えて「赤いりんごにくちびるよせて~」と歌ってみた時に、それを聴いた母が急に「やめてちょうだい、歌わないで」と少し語気を強めて言った。当時はショックだった。それからは、何故、あの時に母親が嫌がったのか?真意など分らぬまま、時間が過ぎた。別段、当時10代の私にとっては口ずさむこともない単に"昔の歌"でしかなかった。
敗戦という状況の中、混乱した廃墟となった日本に流れたのがこの歌だったと聞いた。この歌の持つ明るさは、虚脱感の中にいた国民の心を明るくしたとも聞いた。しかし、それぞれの人にはそれぞれの思いがあるのだろう・・・・。この歌を嫌がった母にも何かの思いがあったに違いない。
その「赤いりんごに・・・」で始まる『リンゴの唄』だが、なんとこの唄には幻の一番があると聞いた。「赤いりんごに~」で始まるのは実は二番であるということ。いやあ、びっくりした。
幻の一番は「りんご畑の香りにむせて 若さに濡れてる りんごの瞳 乙女の希望が光っている りんご可愛いやりんご」。戦前に作られた。日本軍の検閲に通らなかったという背景があったのだ。並木路子さんもこの幻の一番の事は知らず、歌うこともなかったという事実。何故、幻のまま年月を経てしまったのか・・・・・今、平成21年という時代に、この唄の詩に秘められたこととは一体何だったのか?その当時を想像してみる。