
暑い暑いと言いながらも四季のある日本にいることを本当に幸福だと思う。例えば、夏至から数えて11目の7月2日頃から7日までの5日間を半夏生と言う。太陽がじりじりと照りつけ始めるとつい忘れてしまうが、この頃に降る雨を半夏雨といい、これは大雨になる。日本の気象の中でこそ実感できる言葉であり肌感覚である。
梅雨もあけると本格的な夏がやってくる。この暑さの中、ふと懐かしい気持ちにさせてくれるのが朝顔。小学校の時の夏休みの宿題で朝顔の観察日記を書いたことがあった。当時はどうしても赤紫色の朝顔が好きで、青紫色の朝顔が咲くと何か落胆していた。今思うと、何故か不思議でしようがない感覚だが。
さて、朝顔に因んだ話であるが、江戸時代になって「変形朝顔」という日本独特の植物が誕生した。これが作られたのは19世紀初期の事であり、まだメンデルの法則が発表される前の事だ。この変形朝顔は園芸家によって特殊な遺伝子の組み合わせで作られたもので、いろいろな資料を見ると、花や茎などはとても朝顔とは思えない摩訶不思議な植物ではある。しかし、当時、この植物は珍重され、高額で売買されたという。そんな中で園芸家たちは変形朝顔を得るために何千ともいわれるほどの苗を処分をした。大切な命を得て、発芽して、愛らしい双葉をつけた苗を処分する時にどれほど園芸家たちが心を痛めたか・・・
雑司ヶ谷に文政9年建立された法明寺があり、そこにはそんな苗たちを供養したという蕣塚(あさがおづか)がある。酒井抱一の朝顔の絵に添えて「蕣や くりから滝の やさすがた」という句が彫られている。その碑の前にたつと江戸時代の人々の内に流れていた自然と共生していく、そんな優しい気持ちを感じることが出来る。
法明寺
写真 法明寺の蕣塚(あさがおづか)